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バイオエタノールとカーボンニュートラル

ライフサイクル全体でカーボンニュートラル達成を目指す

カーボンニュートラリティとは、CO₂を含む温室効果ガスの排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになる状態のことです。これを理解するために、具体例を見てみましょう。

温室効果ガスの排出量を評価する際に大きく分けてLCA(ライフサイクル評価)、非LCAという2つの考え方があります。前者はある製品や活動のライフサイクル全体で見た場合の排出量、後者は製品や活動で使用される燃料・電力等のエネルギー消費による排出量のみを評価するものです。日本の地球温暖化対策計画では「非LCA」の考え方が採用されており、この考え方によれば、バイオエタノールはカーボンニュートラルです。

温室効果ガスの排出量評価方法は大きく分けて2つ、栽培や採掘から使用されるまでの排出量であるLCA、活動中の排出量である非LCAがある。

LCAの計算には非常に手間がかかり、また多くの前提条件の積み重ねで結果が変わってくることに注意が必要ですが、本質的な理解のためにはLCAの考え方も非常に重要です。

LCA(ライフサイクル評価)の考え方は、栽培や採掘から、製造、運搬、使用されるまでの排出量で評価する。

例えば、木を植えて育て、その木を使って発電する過程を考えてみます:

  • 木が成長する間、光合成によってCO₂を吸収します。
  • 木を切り、運搬し、加工する過程でCO₂を排出します。
  • 発電のために燃やされると、CO₂が排出されます。

もし、この全過程で吸収したCO₂と排出したCO₂が同じ量であれば、真のカーボンニュートラルと言えます。

化石燃料の場合は、文字通り採掘から燃焼して排気ガスになるまでが燃料の一生となります:

  • 採掘:油田や炭鉱からの燃料の採掘にはエネルギーが必要で、CO₂が排出されます。
  • 運搬:タンカーやパイプラインで運ぶ際にもCO₂が排出されます。
  • 精製:原油を使いやすいガソリンなどに変える過程でもCO₂が排出されます。
  • 燃焼:最終的に車などで燃やすときに大量のCO₂が排出されます。

運輸部門の脱炭素化に貢献する電気自動車(EV)、水素を利用する燃料電池自動車(FCV)では、走行時以外のCO排出を考慮する必要があります:

電気自動車(EV)の場合:

  • 走行時:電池に充電した電気で走るため、CO₂の排出はありません。
  • 発電:しかし、その電気を作る過程(例:石炭発電)でCO₂が排出されることがあります。
  • 自動車製造時:EV、特に充電される電池の製造に多くのCO₂排出を伴います。
  • インフラ:充電するための電池の製造、充電設備の建設・運営にもCO₂排出が伴います。

燃料電池自動車(FCV)の場合:

  • 走行時:水素と酸素を反応させて電気を作るため、排出されるのは水だけです。
  • 水素製造:しかし、その水素を作る過程(例:天然ガスの改質)でCO₂が排出されることがあります。
  • 自動車製造時:FCV、特に燃料電池を製造する際にCO₂排出を伴います。
  • インフラ:水素ステーションの建設・運営にもCO₂排出が伴います。

EV、FCVが本当にカーボンニュートラルかどうかは、単に走行時の排気ガスだけでなく、これらすべての要素を考慮して判断する必要があります。

つまり、真のカーボンニュートラリティを達成するには、製品の活動初期から消費まで、ライフサイクル全体を通じて、CO₂の排出と吸収のバランスを取る必要があるのです。これは容易なことではありませんが、地球温暖化対策として重要な概念です。


バイオエタノールにおけるカーボンニュートラリティ

バイオエタノールのカーボンニュートラリティはどうでしょうか。植物を原料とするバイオエタノールは完全にカーボンニュートラルに見えますが、ライフサイクル全体を見てみましょう。

1. 植物の成長と燃焼

  • 植物は成長過程で大気中のCOを吸収します。
  • バイオエタノールを燃焼させると、吸収したCOが再び大気中に放出されます。
  • このプロセス自体はカーボンニュートラルですが、全体のライフサイクルを評価する必要があります。

2. 栽培過程でのCO₂排出

  • 耕作:トラクターなどの農機具は化石燃料を使用し、COを排出します。
  • 肥料・農薬:これらの生産と使用にはエネルギーが必要で、その過程でCOが排出されます。
  • 収穫と運搬:大型機械による収穫や、作物の運搬でもCO排出があります。

3. エタノール生産過程でのCO₂排出

  • 前処理:トウモロコシやサトウキビの処理にはエネルギーを要し、その際にCOが発生します。
  • 発酵と蒸留:エタノール製造時の発酵・蒸留・濃縮・脱水にもエネルギーが必要で、CO排出に繋がります。

4. 輸送と流通

  • 完成したバイオエタノールの輸送でも、鉄道輸送やトラックなどの燃料消費によりCOが排出されます。

これらすべての要因を考慮することによって、バイオエタノールのライフサイクルでのCO削減効果が明らかになります。
日本では、経済産業省資源エネルギー庁がエネルギー供給構造高度化法(高度化法)に基づくバイオエタノールに関する告示を改定する際に、ライフサイクルでのCOの削減率を公表しています。
それによると、ガソリンベースラインと比較して、トウモロコシ原料バイオエタノールは58.5%のライフサイクルGHG(温室効果ガス)削減効果があるとされています。

ガソリンベースラインと比較して、トウモロコシ原料バイオエタノールは58.5%のGHG(温室効果ガス)削減効果がある。※日本の経済産業省資源エネルギー庁によるエネルギー供給構造高度化法(高度化法)を用いて算出。

将来はさらに削減率の向上が期待される

アメリカのバイオエタノール産業は、今後さらにトウモロコシを原料とするバイオエタノールのGHG排出量を削減できると期待されています。2019年の時点で、ガソリンと比べたGHG削減率は52%(アメリカのアルゴンヌ国立研究所が開発したライフサイクル評価ツール『GREET』を用いて算出)とされていますが、2030年までにこの割合は70%に改善される見通しです。
さらに、10年以内にはCOの回収・貯蔵技術の導入や、農業技術の進歩による炭素吸収の増加が見込まれており、最終的にはガソリンに比べて80~90%のGHG削減が可能になるとする予測もあります。

最終的にはガソリンに比べて80%から90%のGHG削減が可能になるとする予測も。※アメリカのアルゴンヌ国立研究所が開発したライフサイクル評価ツール「GREET」を用いて算出。

このような技術革新により、バイオエタノールは今後ますます環境に優しい燃料としての役割を果たすことが期待されています。バイオエタノールの製造過程で発生するGHGを削減する技術が進歩することで、将来的には持続可能なエネルギー源としての重要性がさらに高まるでしょう。
アメリカのバイオエタノールは、トウモロコシを使いながら、より環境に配慮したエネルギーとして進化を続けています。