ページの上部へ

SAFとバイオエタノール

  1. TOP
  2. SAFとバイオエタノール
  3. 持続可能な航空燃料「SAF」とは?

持続可能な航空燃料「SAF」とは?

2050年のカーボンニュートラルに向けた、航空業界の挑戦

近年、地球温暖化対策として「カーボンニュートラル」を目指す動きが世界的に加速しています。これは、CO₂などの温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、2050年までに実質的な排出量をゼロにするという目標です。

この大きな目標達成に向けて、航空業界も重大な変革を迫られています。飛行機は人やモノを迅速に運び、私たちの生活や経済活動に不可欠な存在ですが、航空業界は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約3%を占め、今後その割合はさらに増加すると予測されています。

こうした状況を受け、世界の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)や、国連の専門機関で国際的なルール作りを行うICAO(国際民間航空機関)は、航空業界全体として「2050年までにCO₂排出量を実質ゼロにする」という野心的な長期目標を設定しました。

※補足:IATA(国際航空運送協会)とは?
世界の航空会社が集まる業界団体です。安全運航の推進や、環境問題への取り組みなど、航空業界全体の課題解決に向けて活動しています。

※補足:ICAO(国際民間航空機関)とは?
国連に属する専門機関で、国際的な航空輸送に関するルール作りや、安全基準の設定などを行っています。加盟国が協力して航空業界の課題に取り組むための枠組みを提供しています。

航空業界は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約3%を占める。IATAやICAOは、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げた。

しかし、この目標達成は容易ではありません。航空業界では、以下の3つのアプローチが不可欠であると考えられています。

  1. SAF(持続可能な航空燃料)の活用
  2. 新しい技術(電動航空機や水素航空機など)の開発・導入
  3. 運航方式の改善(効率的な飛行ルートなど)
航空業界では3つのアプローチが重要不可欠であると考えられている。1.SAF(持続可能な航空燃料)の活用、2.新しい技術(電動航空機や水素航空機など)の開発・導入、3.運航方式(効率的な飛行ルートなど)の改善。

この中でも、特に注目されているのがSAF(サフ)です。SAFは“Sustainable Aviation Fuel”の略で、日本語では「持続可能な航空燃料」と訳されます。

SAFとは具体的にどのような燃料なのでしょうか?今回のテーマでは、SAFの強みや原料、製造方法などを詳しく解説していきます。航空業界がどのように変わろうとしているのか、一緒に見ていきましょう。

SAF (Sustainable Aviation Fuel)とは、「持続可能な航空燃料」

世界が注目!SAFってなに?

「持続可能な航空燃料」であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)。なぜ今、これほどまでに注目されているのでしょうか?その理由は、SAFが持つ大きなメリットにあります。

メリット1:CO₂排出量の大幅な削減

SAFの最大の強みは、その環境性能です。従来のジェット燃料が化石燃料である石油から作られるのに対し、SAFは主に廃食油、トウモロコシやサトウキビといった農作物、木くず、微細藻類などのバイオマス資源や、回収したCO₂などを原料として製造されます。

これらのバイオマスを原料とする場合、燃焼時にCO₂を排出する点は同じですが、原料となる植物などが成長過程で光合成によりCO₂を吸収しているため、燃料の生産から燃焼までのライフサイクル全体で見ると、従来のジェット燃料に比べてCO₂排出量を大幅に削減できると考えられています。

メリット2:既存の航空機やインフラを活用可能

もう一つの大きなメリットは、SAFが既存の航空機や空港の給油設備などをそのまま利用できることです。SAFは、従来のジェット燃料と混合して使用することが国際的な規格で認められています。これにより、航空会社は大規模な設備投資や機体の改修を行うことなく、比較的スムーズにCO₂削減を進めることが可能です。

SAFの2つのメリット。CO2排出量の削減、既存の航空機やインフラを活用可能

期待が集まるSAF。しかし普及には課題も

このように優れたメリットを持つSAFですが、本格的な普及に向けては課題も存在します。

課題1:製造コストが高い

現在のSAFの製造コストは、従来のジェット燃料と比較して約2倍から16倍とされています。これは、原料の調達・輸送や製造プロセス、さらなる技術開発などに高い費用がかかるためであり、コストの削減が普及に向けた課題となっています。

課題2:圧倒的な原料の供給量不足

もう一つの深刻な課題が、原料の供給量不足です。世界の航空業界が年間に消費するジェット燃料は約4.2億キロリットルにも達すると言われています。これに対し、SAFの原料となりうる資源の供給量には限りがあります。

例えば、SAFの原料候補の一つである植物油の世界全体の年間生産量は約2.2億トン(約2.5億キロリットル相当)であり、仮にその全てをSAF製造に利用できたとしても、ジェット燃料の総消費量を賄うことはできません。

さらに現在、回収・利用が進む廃食油を例にとると、仮に植物油生産量の1割が廃食油として利用可能だと試算した場合、そこから製造できるSAFの量は最大でも年間約2千万キロリットル程度にとどまります。これは、ジェット燃料総消費量のわずか数パーセントに過ぎません。

SAFの2つの課題。製造コストの高さ(従来の2〜16倍)、原料の供給量不足。

このように、特定の原料だけでは将来の膨大なSAF需要を満たすことは極めて困難です。多様な原料からのSAF製造技術の確立と、生産体制の強化が急務となっています。

SAFは、航空業界の脱炭素化に不可欠な存在であり、そのメリットは大きいものの、コストと供給量という重大な課題を抱えています。これらの課題に対して、解決策はないのでしょうか。

次の記事では、SAFの製造方法や、バイオエタノールとSAFの関係性などを取り上げ、バイオエタノールがSAF普及への鍵となる可能性があることを解説していきます。