ガソリンに混ぜて使われるバイオエタノール
2050年にカーボンニュートラルを達成するため、運輸部門でも様々な取り組みが始まっています。道路交通の分野では電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の開発や利用が進んでいますが、本格的な利用には、まだ時間がかかります。
さらに、長距離の運転や寒冷地での利用、災害時の電気や水素の供給など、これらの自動車では対応が難しい条件があります。そのため、従来の液体燃料の脱炭素化も重要な課題なのです。その取り組みの一環として、注目を集めているのが「カーボンニュートラル燃料」の開発で、その一つであるバイオエタノールが注目されています。
バイオエタノールはガソリンの代替として、ガソリンに混ぜて、自動車燃料として使用することが可能です。バイオエタノールは様々な割合でガソリンに混合することができます。例えば、バイオエタノール10%をガソリンに混合したものは「E10」、85%の混合率のものは「E85」と呼ばれます。このように混合率が高くなるほど、ガソリンの使用量が減少し、CO₂削減効果が高まります。
バイオエタノールの導入は世界中で進んでおり、特にアメリカ、ブラジル、EUなどが混合率を段階的に引き上げる政策を進めています。モータースポーツの分野でもその普及は進んでおり、例えばF1やインディ500と言ったレースで、レースカーの燃料としても使われるようになっています。
バイオエタノールの普及が進んでいるブラジルでは、「E100」と呼ばれる100%エタノールの燃料も流通しており、国や分野によっては積極的にバイオエタノールを取り入れています。世界中で、運輸分野のCO₂排出量削減にバイオエタノールが大きく貢献しているのです。
世界で進むバイオエタノール燃料の導入とその状況
カーボンニュートラル実現に向け、世界各国でバイオエタノール燃料の導入が進んでいます。ガソリンにバイオエタノールを混ぜることでCO₂の排出を抑える効果があり、バイオエタノール混合率を高める方針を示す国が増加傾向にあります。
以下、主な国々での導入状況を見ていきましょう。
アメリカ
アメリカはバイオエタノールの生産で世界最大の国です。国内ではE10(10%エタノール混合ガソリン)が一般的に使われ、E85(85%混合)のガソリンを使えるフレックス燃料車(FFV)が、大手自動車メーカーから販売され、その利用が広まりつつあります。政策的にも国を挙げてバイオエタノールの利用拡大が進められており、法律やインセンティブが整備されています。
ブラジル
ブラジルは、バイオエタノール導入に積極的な国で、ガソリンに対して27.5%のエタノール混合を義務付ける「E27.5」が採用されています。また、バイオエタノール100%の燃料「E100」も一般的に流通しており、サトウキビから生産されたエタノールを使用することで、国内の石油消費量を削減しています。最近ではバイオエタノールの原料としてトウモロコシの利用も増加しています。フレックス燃料車が普及しているため、燃料選択の幅が広がり、持続可能なエネルギー利用のモデルケースとされています。
中国
中国でもバイオエタノールの導入が進み、E10がいくつかの地域で利用されています。特に一部の地域ではE10の混合率が義務化され、都市部を中心にバイオエタノール燃料の利用が促進されています。中国の規模とエネルギー消費量から、バイオエタノール導入の拡大は、今後のCO₂削減において大きな影響を持つと見込まれています。
欧州連合(EU)
EUもバイオエタノール導入に積極的で、メンバー国間で協力しながら持続可能なエネルギーの普及を推進しています。EUの多くの国ではE5(5%エタノール混合ガソリン)およびE10が標準として使用されており、特にフランス、ドイツ、スウェーデンなどは国内のエタノール生産も進めています。
これはフランスのガソリンスタンドの写真ですが、真ん中の小麦の絵はE85のポンプです。これは混合しているバイオエタノールが小麦原料であることを表しています。その右はE10ガソリンです。
EUでは、バイオ燃料を用いたCO₂排出削減を義務化する法規制が整備されており、再生可能エネルギー利用を促進する「リニューアブルエネルギー指令(RED)」のもとでバイオエタノールの導入が推進されています。
カーボンニュートラルの目標達成に向けて、今後さらに多くの国が導入を進めると期待され、持続可能なエネルギー源としてバイオエタノールの役割はますます重要になるでしょう。
日本におけるバイオエタノール混合ガソリンの活用は限定的
カーボンニュートラルに向けた取り組みが進む中で、日本のCO₂排出における産業構造に目を向けると、主に産業部門(工場や製造施設)からの排出が最も多く、次いで運輸部門(自動車などの交通手段)からの排出が続きます。特に、運輸部門でのCO₂排出量の60%以上は自家用車によるものであり、ここでの削減が急務とされています。
バイオ燃料の一種であるバイオエタノールをガソリンに混合することは、温室効果ガスの削減手段として有効です。現在日本国内で流通しているバイオエタノール混合ガソリンは限られており、世界的に見ても利用率は低いため、その普及が期待されています。
法的には、広く流通しているガソリンには最大3%までエタノールが入っていることが認められています。E10適合車向けに、ガソリンに10%エタノールを混合する「E10」ガソリン規格が別途認められていますが、現状ではエタノールを直接混合したガソリンは、名古屋にある中川物産という企業が日本で唯一エタノール直接混合のE7を販売している以外は流通しておらず、エタノールをETBEという物質に変換してから少量混合したガソリンが流通しているのみです。他国のようにバイオエタノールを直接ガソリンに混合して利用するには至っていないのが現状なのです。
日本政府はバイオエタノールの導入をさらに推進し、カーボンニュートラルに貢献することが求められています。これに向けて、国内でのバイオエタノール生産を含む新たな供給体制の整備や、エタノール混合率を引き上げるための政策支援が期待されます。
2024年11月11日に経済産業省が公表した資料によると、2030年までにエタノールの最大10%混合、2040年までに20%混合ガソリンの供給開始を目指すことを明らかにしました。そのため、経済産業省は2025年の夏ごろに具体的な行動計画を策定し、関連の支援策などを進めていくとしています。
このように、日本では、世界的な水準と比べるとバイオエタノール混合ガソリンの導入が遅れていますが、今後のカーボンニュートラルの達成に向けた重要な取り組みとして位置づけられ始めています。