世界でトウモロコシ生産量が最も多く、シェアの約3割を占めるアメリカ。そこで作られるトウモロコシの一種であるデントコーンは、バイオエタノールの原料や家畜の飼料となり、世界の脱炭素や食料供給において重要な役割を担っています。
実は、これだけ多くの生産量を誇る一方で、トウモロコシを「同じ量」育てるために必要な土地や水、エネルギーの消費量、さらには温室効果ガスの排出量は昔と比べて減少しており、
地球環境に優しい農業技術が実現しているのをご存知でしょうか。
今回は、アメリカ穀物バイオプロダクツ協会のグローバル・サステナビリティ担当ディレクターであるカルロス・スアレスさんと、同協会の前会長であり現役の農家でもあるベリティ・ウリバッリさんに、持続可能なアメリカの農業の現在地についてインタビューを行いました。
※ぜひ動画とセットでご覧ください。
― 本日は、アメリカ穀物バイオプロダクツ協会のグローバル・サステナビリティ担当ディレクターであるカルロスさん、農家でありアメリカ穀物バイオプロダクツ協会の前会長であるベリティさんに、アメリカで取り組まれているサステナブルな農業の様子について、お話を伺っていくよ!
カルロスさん、ベリティさん、本日はよろしくお願いします!
こんにちは、カルロス・スアレスです。
私はアメリカ穀物バイオプロダクツ協会で、グローバル・サステナビリティ担当ディレクターを務めています。
本日はこちらで、バイオエタノールという素晴らしい製品へとつながる持続可能な穀物を生産するために、私たちの生産者がどのような取り組みを行っているかについて、皆様にお話しできることを大変嬉しく思います。
(ベリティさんは5問目よりご回答いただいています)
― 日本の視聴者はアメリカの農家について、ほとんど詳しく知らないと思います。昔は重労働なイメージがありましたが、今はどのように進化しているのでしょうか?
ご質問ありがとうございます。
まずお伝えしたいのは、農業は今もなお、大変な重労働であり続けているということです。
多くのことが変化し、一方で変わらないこともありますが、全体として今日のアメリカ農業は、今でも家族経営が中心です。アメリカの農業において、その割合は90%を超えています。農地がどれほど広大であっても、農業の本質は家族の営みなのです。それぞれの家族が、環境保全と土地に対する管理責任(スチュワードシップ)の伝統を受け継ぎながら、農場を運営しています。家族経営であること、そして土地を守り育む姿勢は、今も昔も一貫して変わりません。これは、生産者たちが自分たちの農法が土地に与える影響を学ばざるを得なかった、約100年前の経験にまで遡ります。それ以来、彼らは地域レベルで政府と協力しながら、生産活動による環境負荷を減らし、より持続可能なものにするために取り組みを続けてきました。
一方で、ここ数十年で本当に大きく変わったのは、生産性が信じられないほど向上した点です。今日これほど生産性が高くなったのには多くの理由があり、それについては後ほど詳しくお話しします。
しかし、様々なテクノロジーの進化によって、約100年前の1930年代には1ヘクタールあたり約1.3トンだった生産量が、今日では1ヘクタールあたり11トン以上にまで増加しました。つまり、当時よりも少ない土地で、はるかに多くのトウモロコシを生産できるようになったのです。これが最も大きな違いと言えます。
また、現代の生産者には、より多くの優れたツールが備わっています。彼らは多くのことを学び、環境負荷を抑える方法を今も熱心に吸収し続けています。これらが、アメリカ農業の変化における主要なトレンドであると考えています。

― アメリカのトウモロコシ農場は、1つの農家でどれくらいの広さを管理しているのですか?日本の感覚だと想像もつかないスケール感を教えてください。
アメリカのトウモロコシ農場の平均的な規模についてお話しする前に、まずアメリカ全体のトウモロコシ生産がどれほど広大な規模で行われているかをお伝えしたいと思います。
日本全国の国土すべてをトウモロコシ畑で埋め尽くしたと想像してみてください。それが、アメリカでトウモロコシが栽培されている総面積に匹敵します。まずは、この視覚的にイメージしやすい圧倒的なスケール感をお伝えしたかったのです。
その上で、個々の農場に目を向けると、トウモロコシ農場の平均的な広さは約111ヘクタールに達します。1ヘクタールをサッカー場1面分とすると、だいたいサッカー場100面分以上の広さになります。日本の皆様に比較しやすいようにお伝えすると、日本の農場の平均的な規模は約1ヘクタールですので、それと比べるとアメリカの農場は非常に広大です。しかし、これほど大規模であっても、その90%以上は家族経営なのだという点が重要なポイントです。
アメリカのトウモロコシ農業はこの圧倒的なスケール感があるからこそ、今日の高い効率性を達成することができました。そして、これらの農場は通常わずか1人から5人ほどで運営されています。大抵は夫婦とその父親であったり、数人の兄弟とその息子たちといった構成です。もちろん経営規模にもよりますが、通常は2〜3人でこれほど広大な農場を切り盛りしており、その規模に対して達成されている生産性の高さには、改めて目を見張るものがあります。

― トウモロコシ生産を増やせば増やすほど環境を壊すのでは?というコメントを視聴者からいただくことがあります。アメリカのトウモロコシ生産量の現状とサステナビリティについて、教えてください。
ご質問をいただき、ありがとうございます。
それに対しては、実は「全くの逆である」とお答えしたいと思います。もし、私たちがアメリカで行っているように、正しいアプローチで取り組むのであればの話ですが。
今日のアメリカでは、100年前よりも少ない土地で、はるかに多くのトウモロコシを生産しており、これには非常に大きな意味があります。かつては、今日生産されているトウモロコシのほんの一部を生産するために、約4200万ヘクタールもの土地を利用していました。しかし現在では、それよりも少ない3900万ヘクタールの土地を利用して、4億2000万トン以上のトウモロコシを生産しています。
そして、そのトウモロコシからは(家畜の)飼料だけでなく、バイオエタノールといった他の製品の原材料も作られます。バイオエタノールは製造過程を経て燃料となりますが、そのプロセスで生まれる副産物は、再び飼料業界へと還元されます。したがって、バイオエタノールの製造は炭素排出量を削減し、環境に貢献しているのです。
さらに、生産者たちの生産手法そのものが、土壌への炭素貯留を促し、生態系サービスの向上に実際につながっています。これは非常に重要なことです。こうしたプラスの影響は、さまざまな作物の環境負荷を追跡するためにアメリカに存在する、6つの環境指標を測定する枠組み「フィールド・トゥ・マーケット」でも確認されています。
トウモロコシの場合、1980年当時と比較して、現在では同じ量を生産するために必要な土地は42%減少し、水は56%、エネルギーは54%削減されています。また、土壌の浸食は39%減少し、さらには世界的な課題である温室効果ガスの排出量も、1ブッシェルあたり48%以上削減されていることが分かっています。
つまり、正しい方法で行い、環境負荷の低減にしっかりと投資をしていれば、環境への害を減らしながら、同時に生産量を増やすことが実際に可能なのです。

― 最近注目されている「不耕起栽培(耕さない農業)」や「カバークロップ(被覆作物)」など、脱炭素へ貢献する再生農業の取組みについて教えてください。
環境再生型農業(リジェネラティブ・アグリカルチャー)についてまずお伝えしたいのは、実はまだ明確な単一の定義が存在しないということです。核心となるいくつかの原則はありますが、決まった一つの定義があるわけではありません。
この環境再生型農業において目指しているのは、土壌への攪乱を最小限に抑えること、作物の多様性を最大限に高めること、土壌を常に植物などで覆っておくこと、そして年間を通じて土地の中に生きた根を維持することです。これらすべてに、表土の再生や生物多様性の向上といった具体的なメリットがあるからです。これにより、より広い意味での循環が改善され、生態系サービスが強化され、当然ながら炭素の貯留にも繋がります。これらが環境再生型農業の基本的な要素です。
そして、これらはすべて、今日のアメリカのトウモロコシ生産者が行っている取り組みと非常に深く合致しています。アメリカのトウモロコシ農地では、すでに70%以上の生産者が何らかの形で「保全耕起」を導入しています。
それは、種まきの準備として土地を一切耕さない「不耕起栽培(ノーティル)」であったり、あるいは「ストリップティル(部分的耕起)」や「マルチティル」といった、環境負荷を抑えた他の省力耕起法であったりします。これらは基本的に土壌の表面を(前年の収穫残渣などで)覆った状態に保つため、土の中に炭素を閉じ込め、土壌の浸食を減らし、結果として環境への影響を抑えることができます。これらは、それぞれの農場で可能な範囲において、他の様々な手法とともに現在実践されている取り組みの代表例です。
また、アメリカのトウモロコシ栽培や穀物生産において実践されている「輪作(作物のローテーション)」も非常に重要です。これらは地域によって異なります。同じ条件の農場は一つとしてないため、輪作のパターンも様々ですし、それぞれの土地に応じて「カバークロップ(被覆作物)」などの異なる手法を導入しています。カバークロップは、先ほど申し上げたように土の中に生きた根を維持し、水分の浸透性を高め、土壌の浸食を抑え、肥料などの農業資材を散布した際の流出を防いでくれます。このように、これらすべての要素が今日のアメリカのトウモロコシや穀物生産において積極的に導入されており、全体のサステナビリティに大きく貢献しているのです。

― アメリカの農業では、自動運転トラクターやドローンの使用がされているそうですが、こうしたテクノロジーが、どう脱炭素に貢献しているのでしょうか?
まず自己紹介から始めさせていただきます。私はアメリカの農家であり、アメリカ穀物バイオプロダクツ協会の前会長を務めておりました、ベリティ・ウリバッリです。本日このように皆様を代表してお話しできることを嬉しく思います。
自動運転トラクターやドローンについてお話しするにあたり、アメリカで私たちがよく使う「精密農業(プレシジョン・アグリカルチャー)」という言葉をご紹介させてください。これにはGPS誘導トラクターや収量モニター、さらには肥料や種子、農薬を必要な場所に最適な量だけまく「可変施用」といった技術が含まれます。これらによって、最終的に農場運営を圧倒的に効率化できるようになります。
たとえば、GPSで誘導される自動運転トラクターを使うことで、同じ場所を二度通る無駄がなくなり、燃料を直接削減できます。畑の中で最も生産性が高く効率的なルートを走れるため、重複は一切ありません。これにより、種を植える位置や畝の精度が非常に高くなります。1,000エーカー(約400ヘクタール)のトウモロコシ農場であれば、年間1,500から3,000リットルもの軽油を削減でき、多くの農家にとって大きなコスト削減になります。
さらに、これらの技術はエンジンの最適化にも応用されており、畑を移動する際、適切な回転数や速度を維持して最も効率的に稼働させることができます。また、走行ルートを固定して制限することで、特定の場所以外の土壌を踏み固めてしまう「土壌圧密」を減らすことも可能です。種まきや肥料、農薬の散布といった作業のタイミングもより正確になり、ほぼ24時間体制で行うことができます。オペレーターはトラクターの運転や機材の操作だけに集中する必要がなくなり、すべてが正しく機能しているかどうかの管理に専念できるようになります。
ドローンに関しては、技術の向上や新しい活用法が分かってきたことで、ここ数年で導入が一段と進んでいます。すぐに大きな効果が出たものの一つが、作物の生育状況を確認する「見回り」です。上空を飛行させて高性能カメラで撮影し、その画像をソフトウェアで解析します。すると、作物の成長ステージに応じて、畑のどのエリアで肥料が不足しているか、あるいは病気や害虫の被害が出始めているかをピンポイントで特定できます。これにより、わざわざ車などで広い畑を何人も見回る必要がなくなり、大幅な効率化につながります。
また、一部の地域では、トラクターや重機を畑に入れずに上空からカバークロップ(被覆作物)の種をまくことにも活用されています。さらに、畑全体だけでなく必要な場所にだけピンポイントで農薬を散布できるため、使用量を減らすことも可能です。 このように、自動運転トラクターやドローンシステムなど、さまざまな技術が連携し合うことで、燃料や肥料、化学物質の使用量が削減され、農場全体の効率が向上します。私たち農家にとって、直面している総生産コストを考えると、これは非常に大きな意味を持ちます。農業の手法を効率化し、資材の使い方をより意識できるようになるだけでなく、最終的な利益を高めて経営の収益性を向上させることにも大きく貢献しているのです。

前編では、アメリカ農業の基礎的な情報を教えていただきました。広大な面積を家族経営で守っていること、その効率的な運営のために自動運転トラクターやドローンなどの技術が活躍していること、そして積極的に取り組まれている環境再生型農業のリアルなど、参考になるお話をたくさん伺うことができました。
後編では、アメリカの農家の脱炭素に対する意識や、現在抱える課題、そして将来に対する展望など、より幅広いテーマでアメリカ農業のサステナビリティについて語っていただきます。
後編もお楽しみに!


