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SAFとバイオエタノール

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救世主となるか?バイオエタノールからのSAF生産

てんぷら油だけじゃない!様々なものから作られるSAF

「てんぷら油で飛行機が飛ぶ」。そんな驚きのニュースを見聞きしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。実際に、SAFの原料として、家庭や飲食店、スーパーなどで使い終わった食用油(廃食油)は重要な柱の一つです。

しかし、SAFの原料は廃食油だけではありません。持続可能な社会を目指す中で、実に様々なものが原料として研究・利用されています。現在、主に使われている、あるいは将来的に期待されているSAFの原料を見てみましょう。

分類原料例製造技術成熟度原料コスト
(収集・前処理コストを含む)
製造コスト原料供給力
動植物油
(含む廃食油)
廃食油、パーム油、大豆油など◎高い
(確立・商用化済)
○~△上昇傾向
(廃食油高騰)
◎安価
(HEFA技術確立、主流)
△~○
(植物油は既存大規模生産、廃食油は供給量に限度あり)
バイオエタノールトウモロコシ由来エタノール、サトウキビ由来エタノール〇~◎比較的高い
(商用化に近い実証段階)
◎安価〇~◎安価~中 (エタノール製造:安価、ATJ:2025年時点で実証中)◎高い
(既存大規模生産、特にトウモロコシ)
セルロース系バイオマス木材チップ、稲わら、古紙、など△~〇低い~中
(実用化途上)
△高価
(収集・前処理コスト高)
△高価
(技術開発途上、効率化課題)
△~◎原料の存在量自体は高い
(ただし収集・前処理・栽培技術に課題)
藻類バイオマス微細藻類
(ミドリムシなど)
△低い
(開発途上)
△高い
(大規模培養が難題)
△高価
(抽出・変換)
△大規模培養に難
廃棄物都市ごみ、下水汚泥など△低い
(開発途上)
○原料は安価
(大規模設備、運用コスト高)
△高価
(ガス化FT合成など高度技術)
△~〇中程度
(都市部に集中、質が不均一、収集体制次第)
CO₂と水素工場排ガスCO₂、大気直接回収(DAC)CO₂、再生可能エネルギー由来水素など△低い
(開発途上)
×~△回収コストが非常に高い~高い
(CO₂は回収方法に依存、水素は再エネ電力コスト依存)
×~△
非常に高い~高い
(大規模化・高効率化課題)
△存在量は莫大だがCO₂回収・水素製造に難(再エネ水素次第)

このように、SAFの原料は驚くほど多様ですが、現状、「動植物油」と「バイオエタノール」以外は製造技術が未成熟です。特定の原料に依存せず、コストや供給の安定性などを踏まえ、最適な原料を組み合わせていくことが、今後の安定供給には重要です。

SAFの原料としては主に動植物油(含む廃食油)、バイオエタノール、セルロース系バイオマス、藻類バイオマス、廃棄物、CO2と水素が使用されており、中でも「動植物油」「バイオエタノール」は商用技術またはそれに近い段階にある

また、GHG排出削減度は計算モデルによって値が異なります。SAFについてはICAOが独自の基準を設けていますが、算出に古いデータが使われていることや、不確定な経済的要因が含まれているといった課題があるため、現在、基準の修正が検討されています。


どうやって作るの?SAFの主な製造方法

SAF(サフ)は、トウモロコシ、使い終わった天ぷら油、木くず、ごみ、さらには空気中の二酸化炭素(CO₂)まで、本当に色々なものから作れる燃料だということを解説しました。

では、これらの原料は、どうやって飛行機を飛ばせるジェット燃料になるのでしょうか? そして、その燃料は本当に安全なのでしょうか?

飛行機に使う燃料ですから、何よりも安全であることが一番大切です。そのため、SAFを作るには、「適切な製造方法で、安全な品質であること」を証明するための、厳しい世界共通のルール(品質規格)があります。

そのルールを守っているかどうかは、ASTMインターナショナルのような、世界的に信頼されている機関が厳しくチェックします。そこで「この作り方なら大丈夫、安全です」という認証をもらわないと、実際の飛行機に使うことはできません。

※補足:ASTMインターナショナル(ASTM International)とは?
材料、製品、システム、サービスなど幅広い分野に関する国際的な技術標準(規格)を開発・発行している、アメリカに本部を置く世界最大級の標準化機関です。航空燃料に関する品質規格(従来のジェット燃料規格D1655や、SAFに関する規格D7566など)も定めており、SAFの品質保証と安全な利用において重要な役割を果たしています。

ジェット燃料の製造には、品質と安全性を保証する規格がある。その基準を満たしているかは、ASTMインターナショナルなどの国際機関が厳しく審査している。

そして、今のルールでは、作られたSAFの多くは、100%そのまま使うのではなく、昔から使われているジェット燃料に混ぜて使うのが基本となっています。

どれくらいの割合まで混ぜて良いか(混合できる量の上限)も、SAFの作り方ごとに、この世界共通のルールで決められています。

世界で「安全な作り方」として認められている方法はいくつか種類があります(2024年時点で主に7種類)。

具体的には以下の表の通りとなります。

製造プロセス主な原料混合上限
(対ジェット燃料)
HEFA-SPK動植物油(廃食油、植物油等)50%
ATJ-SPK
(Alcohol to Jet)
バイオエタノール50%
FT-SPK有機物全般(木くず、都市ごみ等)50%
SIP糖(サトウキビ等)10%
FT-SPK/A有機物全般(木くず、都市ごみ等)50%
CHJ生物系油脂(廃食油、植物油等)50%
HC-HEFA微細藻類10%

※補足:◯◯-SPKとは?
Synthetic Paraffinic Kerosene(合成パラフィン系ケロシン)の略称。これは、様々な合成技術(HEFA、ATJ、FTなど)を用いて製造された、パラフィンという種類の炭化水素を主成分とするジェット燃料成分(ケロシン)のことを指します。従来の石油から精製されたジェット燃料と比較して、不純物が少ないクリーンな性質を持っています。ASTM D7566規格では、このSPKを従来のジェット燃料と一定の割合まで混合して航空燃料として使用することを認めています。

この中でも、油脂を原料とする「HEFA-SPK」とバイオエタノールを原料とする「ATJ-SPK」は、商業技術として確立されているか、もしくはそれに近い段階にあります。


救世主となるか?バイオエタノールからのSAF生産

SAFは、航空業界のカーボンニュートラル実現に向けた切り札として期待されていますが、その普及には大きな課題も存在します。その一つが前の記事で解説した「供給量の不足」です。

IATAの分析によると、世界のSAF生産量は増加傾向にはあるものの、まだ非常に少ないのが現状です。

  • 2023年の生産量: 約50万トン
  • 2024年の推定生産量: 約100万トン

これらの数字は大きく聞こえるかもしれませんが、世界のジェット燃料の総生産量から見ると、わずか0.3%程度に過ぎません。

SAFの生産量は少なく、ジェット燃料の総生産量から見ると、わずか0.3%程度

一方で、世界各国での環境規制の強化や、航空会社の自主的な目標設定により、SAFの需要は今後、加速度的に増大していくと予測されています。つまり、作りたい量(需要)に対して、作れる量(供給)が全く追いついていないという大きなギャップが生じているのです。

この供給不足の大きな原因の一つが「原料確保の難しさ」です。現在、SAFの主流な原料となっているのは、使い終わった食用油(廃食油)などです。しかし、需要が高まるとともに、供給量が限られているため、価格も高騰し始めています。

このままでは、将来の膨大なSAF需要を満たすことは困難です。そのため、より安定的に、かつ大量に確保できる新しい原料ソースが求められています。

そこで大きな期待が寄せられているのが、バイオエタノールを原料としてSAFを製造する「ATJ(Alcohol to Jet)」という技術です。

バイオエタノールは、主にトウモロコシやサトウキビといった作物を発酵させて作られるアルコールです。ATJ技術は、このバイオエタノールを化学的に処理して、ジェット燃料に変換するものです。


なぜバイオエタノールが注目されるのか?

バイオエタノール、特にアメリカなどで大規模に生産されているトウモロコシ由来のバイオエタノールがSAF原料として注目される理由は、その供給ポテンシャルの大きさにあります。

  • 豊富な供給量と安定性: アメリカではトウモロコシが大規模に栽培されており、それを原料とするバイオエタノールの生産量も世界最大です。廃食油などと比べて供給量が圧倒的に多く、将来にわたって安定的に原料を確保できる可能性が高いと考えられています。
  • 既存インフラの活用: すでに確立された大規模なバイオエタノール生産・流通インフラを活用できるため、比較的スムーズにSAF生産へ繋げられるというメリットもあります。
バイオエタノールは供給ポテンシャルがあるため、原料確保の解決策になりうる。

増大するSAF需要に応えるための現実的かつ有力な選択肢の一つとして、バイオエタノールを活用したATJ技術に大きな期待が寄せられているのです。