世界で増加するトウモロコシ生産と日本との関係
過去60年間で、トウモロコシやサトウキビの生産量は目覚ましい成長を遂げており、特にアメリカとブラジルの生産性向上が顕著です。
1961年以降、アメリカのトウモロコシは、60年間で単位あたりの収穫量(単収)は約3倍に増加した一方で、収穫面積はほとんど増加していません。これにより、収穫面積を抑えつつも生産量を増やす効率化を達成しており、トウモロコシ生産の大国として世界をリードしています。一方で、ブラジルのサトウキビの単収は60年間で約2倍に、収穫面積を約7倍に拡大してきました。
このようにトウモロコシの単収向上や栽培地の拡大、輸出の多様化が進む中、世界のトウモロコシ生産量は増加を続けています。世界のトウモロコシ生産量約12億トンの約3分の2はアメリカであり、続く中国、ブラジルと合わせた3カ国でそのほとんどを占めており、これに続くEUやアルゼンチンでも生産が増加傾向にあります。
これらの生産国からのトウモロコシを大量に輸入しているのが日本で、年間約1,500万トンを輸入しています。日本の輸入トウモロコシのほとんどが、畜産飼料の原料やコーンスターチの原料として利用されています。
トウモロコシ需要の増加は穀物価格へ影響を与えているのか?
世界でトウモロコシの需要が高まる中、その価格が他の穀物や商品価格にどのように影響するかが注目されています。特に、バイオエタノール生産の拡大が価格変動の要因になるのではと心配されることもありますが、過去のデータからは異なる傾向が見られます。
アメリカでバイオエタノールの生産が盛んになった2000年代初頭、トウモロコシ需要の増加とともに穀物価格も高騰しました。特に2008年には、世界的な商品価格全般の高騰や他の穀物の不作も重なり、トウモロコシを含む多くの穀物の価格が急騰しました。
しかし、その後の2008年に発生したリーマンショックを契機に、経済の動向が変化し、バイオエタノールの生産量は増加を続けた一方で、穀物価格は徐々に低下しました。この結果、バイオエタノールの生産が直接穀物価格を押し上げていたわけではなく、商品市場全体の価格に連動する形で変動していたことが明らかになりました。
近年もトウモロコシ需要は増え続けていますが、供給力の向上によって十分に需要が満たされているため、「トウモロコシの需要が原因で穀物全般の価格が高騰している」という状況は確認されていません。農業技術や生産効率の改善により、トウモロコシの安定した供給が可能になり、市場価格の安定化が実現しています。
日本におけるバイオエタノール生産拡大の可能性と課題
日本においてバイオエタノール生産を拡大することは、温室効果ガス(GHG)排出削減のみならず、エネルギー安全保障や地域活性化の観点からも重要視されていますが、日本がエタノール自給を目指すためには、コストや供給面での課題をクリアする必要があります。
これらの課題を克服するためには、国内原料だけでなく輸入トウモロコシの活用や、製造規模の大規模化によって人件費や運転費を削減することが重要です。また、トウモロコシ原料から併産物として得られるジスチラーズグレインを家畜飼料原料として販売するなど、副収益を確保することも重要となります。また、税制のサポートも鍵を握ります。
世界的にバイオエタノールは、運輸部門でのGHG排出削減のための有効なツールとして利用が進んでいます。日本でもエタノール利用を進めることは、90%を中東に依存する原油由来の液体燃料の代替としても重要であり、エネルギーの多角化を図ることでエネルギーリスクの軽減も期待されます。
さらに、バイオエタノールの国内生産を拡大すれば、地域の農業振興や過疎地での雇用創出にもつながり、地域活性化対策としても大きな意義があります。これにより、日本国内の自給率向上やエネルギー安全保障に寄与するだけでなく、持続可能な社会に向けた一歩となるでしょう。