前編では、アメリカ農業の圧倒的なスケールや農業技術のリアルについて教えていただきました。
後編ではさらに一歩踏み込み、農家の脱炭素に対するリアルな意識や生産コストへの向き合い方、そして「バイオエタノール生産と食料・お肉の価格との関係」など、より深掘りした様々なテーマについて伺いました。
※ぜひ動画とセットでご覧ください。
― アメリカの農家の脱炭素に対する意識について教えてください。
ありがとうございます。
アメリカの農家の視点から見ても、脱炭素への意識は著しく高まっています。それは、私たちが環境保護のために貢献したいという想いだけでなく、エタノール業界からのニーズや、アメリカの「再生可能燃料基準(RFS)」によって生み出されたインセンティブの影響があることも事実です。
私たちは、バイオ燃料に関わる全体の排出量において、原材料となる穀物の生産プロセスが非常に重要であることを理解しています。どのような方法で栽培し、どのように土地を利用するかが、燃料の「炭素集約度(カーボンインテンシティ:単位あたりの炭素排出量)」に大きな影響を与えるのです。
この再生可能燃料基準(RFS)は、原材料の生産と炭素集約度を市場の仕組みと連動させることで、効果的なインセンティブの枠組みを作り出しました。
こうした枠組みや同様の仕組みは、カリフォルニア州や欧州連合(EU)、ブラジル、そしてここ日本でも導入され始めています。これらの地域では、インセンティブがより細かく設定されており、炭素集約度を下げれば下げるほど、より大きなメリットが得られるようになっています。この傾向は、特に持続可能な航空燃料(SAF)や船舶用燃料の規制において顕著に見られます。
さらに、バイオ燃料や原材料の生産者に向けて新しく作られた「45Z税額控除」という制度もありますが、これも税額控除の価値を、生産される燃料の炭素集約度に直接連動させる仕組みになっています。

― 「環境に良いこと=コストがかかる」というイメージがあり、脱炭素に取り組む農業は収入面では不利なように思います。アメリカの農家が脱炭素を推進するメリットは何かあるのでしょうか?
(カルロスさんの回答)
ここで私がお伝えしたいのは、環境に良い取り組みが、必ずしも追加のコストを意味するわけではないということです。農業はそれぞれの地域の状況に大きく左右されます。そのため、最も考慮すべき重要な点は、すべての栽培手法がどこの場所でも同じように機能するわけではないという点です。ある場所ではコストの節約になっても、別の場所では追加のコストがかかることもあります。
それを踏まえた上で、明らかにコストを削減できる取り組みも存在します。環境に良く、同時にコスト削減に繋がる例としては、トラクターを走らせる回数を減らして燃料を節約できる「保全耕起」が挙げられます。これはまさに、環境にとっても経営にとってもプラスになる「ウィン」の取り組みです。肥料や農薬の「可変施用」も同様で、資材への投資を抑えてコストを削減し、さらなる節約を生み出してくれます。
しかし、初期投資が必要となるために、コストが増加してしまう手法があるのも事実です。その代表例が「カバークロップ(被覆作物)」です。これには種子の購入費が必要で、追加の労働力もかかりますし、場合によっては燃料の消費が増えることもあります。このように、どの手法を選択するかによって、追加のコストが発生することがあります。
アメリカでは「精密保全管理(プレシジョン・コンサーベーション・マネジメント)」といったプログラムを通じて、どの手法が明確な利益をもたらすかを測定してきました。その結果、例えば「窒素肥料の最適な施用量」や「保全耕起」は、確実にプラスの効果をもたらすことが実証されています。その一方で、カバークロップのような手法については、農家が導入しやすくするためのインセンティブが必要になる場合もあります。
ですから、それぞれの状況を見極めることが重要であり、環境に配慮することが必ずしもコスト増に直結するわけではないということを、ぜひご理解いただきたいです。
(ベリティさんの回答)
もちろん、アメリカの農家にとっても大きなメリットがあります。これは私たちが環境に配慮しようとする取り組みの一環であるだけでなく、フードシステム全体における食品の低炭素化に確実に繋がります。
さらに、トウモロコシやソルガムから作られる製品が関わる、飼料や輸送、そして15以上のサプライチェーン全体における温室効果ガス(GHG)の排出削減にも貢献します。
また、気候変動などに対してより回復力のある強い農地を作り出し、自然の恵みである生態系サービスの向上や、土壌への炭素貯留をさらに強化することにも繋がるのです。

― トウモロコシをバイオエタノール生産に回すと、私たちが食べるお肉や食品の値段が上がってしまうという心配はありませんか?
実際の状況をお話しすると、バイオエタノールの増産が全般的な物価上昇に繋がっているという見方には誤解があります。これは直接的な因果関係ではありません。なぜなら、トウモロコシには複数の製品が同時に生まれる「マルチアウトプット(多産品的)」の仕組みがあるからです。多くの人は、トウモロコシを燃料に使うとエタノールしか得られないと誤解していますが、それは正しくありません。
たとえば、約25.4キログラムに相当する1ブッシェルのトウモロコシを使用すると、実際には複数の製品が得られます。一方では約3ガロンのエタノールが作られますが、同時に、DDGSと呼ばれる蒸留粕が約15ポンド(約6.8キログラム)生産され、これが再び家畜の飼料生産システムへと還元されます。それだけでなく、コーンオイルや、さらには炭酸飲料に使われる二酸化炭素までもが回収されます。このように、一つの原料から多くのものが生まれるシステムなのです。そのため、エタノールに回した穀物の分だけ、そっくりそのまま飼料向けの供給が減ってしまうという理屈は事実ではありません。
アメリカは、飼料業界のニーズと、燃料業界の脱炭素化に向けた要求の両方を同時に満たすだけのトウモロコシを増産できることをこれまで証明してきました。これは非常に重要な視点です。もちろん、それぞれのサプライチェーン同士に繋がりはありますが、それは単純に直結しているわけではありません。たとえば、全般的な燃料価格の変動が、トウモロコシと牛肉の価格に同時に影響を与えることもあります。このように非常に複雑な関係性だからこそ、適切に理解するためには、個別の要素ではなく全体をシステムとして捉えるアプローチが必要になるのです。

― 将来のアメリカの農業はどんな姿になっていると予測されていますか?私たちの生活にどんな変化をもたらすか、ビジョンを教えてください。
まず第一に、私はアメリカの農業の未来は明るいと信じています。そうでなければ、自分の時間や資源、そして資金をこの取り組みに投資し続けることはないでしょう。
世界中のどこであっても同じですが、アメリカの生産者も他の国の生産者も様々な課題に直面しています。しかし、それらに対処するためには、私たちは常に進化し、適応していかなければなりません。
その課題とは主に、種子や肥料、農薬といった生産資材コストの高騰です。また、それらのコストをカバーするために必要な設備投資の額も著しく高くなっています。そのため、私たちはより大きな規模の経済で農場を運営しなければならず、これは農業部門全体である程度の集約が進むことを意味します。
しかし、それは必ずしも農業に携わる人の数が減ることを意味するわけでも、生産量が落ちることを意味するわけでもありません。実際には、それによって生産量が増加し、さらなる効率化がもたらされると考えています。そして、これは過去数十年にわたり、アメリカの農業だけでなく、テクノロジーの導入が進んだ他国でも見られてきたことです。さらに地域特性に応じた専門化のレベルが高まったことで、通常であれば利用されなかった農地や、それほど生産性が高くなかった土地でも確実に生産を行えるようになりました。
これにより、農業経済の中でより循環的なシステムを構築することも可能になります。つまり、お互いを補い合うような作物を育てる生産者が繋がっていくのです。たとえば、私たちがトウモロコシやソルガムを栽培し、それを様々な家畜の飼料として利用したり、エタノール生産に回したりします。そして、そのエタノール生産のプロセスからは、今度は家畜の飼料となる蒸留粕などの副産物が生まれます。このように協力し合うことで、サプライチェーン全体の効率性をさらに高め、高騰する資材コストや必要な資金への対応をより適切に行うことができると考えています。
そして、アメリカの生産者たちは確実にその挑戦に立ち向かう覚悟ができています。私たちは、農業や食品生産全般が、一国の安全保障だけでなく、地球の全人類の安全保障の鍵であることを知っています。私たちは自らの役割を果たしたいと考えていますが、同時に、環境に与える影響を常に強く意識することも忘れてはなりません。なぜなら、環境をできる限り最善の状態に保たなければ、最適なレベルでの生産を続けることはできなくなるからです。ですから、これは私たちにとって非常に重要なことです。世界のために食料や燃料、そして安全保障を生み出しながらも、私たちの周囲にある自然の生態系がしっかりと存続し続けられるようにしていきたいと考えています。

― 日本の私たちが、アメリカのサステナブルな農産物を選ぶことは、世界の未来にどう繋がっていくのでしょうか。視聴者へメッセージをお願いします。
まず始めに、私たちの製品を日頃から利用してくださっている日本の消費者の皆様に、心から感謝の意を表したいと思います。一人の生産者として、自分たちの製品を販売できる多様な市場があることは本当に心強いですし、私たちが注いできた日々の努力が、最終的に使ってくださる方々に届き、喜ばれているのだと実感できることは、大きな誇りと満足感に繋がります。
これまでに日本を2度訪れたことがありますが、その経験のおかげで、生産現場と日本の皆様という点と点が自分の中でしっかりと結びついたように感じており、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
また、私たちが育てるトウモロコシやソルガムといった農産物は、世界の環境サステナビリティと食料安全保障に大きく貢献する「戦略的パートナーシップ」そのものであると考えています。もし、製品を買い続けてくださる市場がなければ、持続可能な方法で生産を続けるための適正な価格を維持することができなくなってしまうからです。ですから、安定した市場の存在は持続可能な食料生産を支える極めて大きな要素であり、同時にエタノールとの繋がりを通じて、燃料生産を支えることにも直結しています。
この繋がりを持つことは非常に重要です。なぜなら、これは単なる食料生産の話にとどまらず、不耕起栽培やカバークロップ、精密農業といった、環境負荷を抑えるための私たちのあらゆる取り組みを支えるベースになるからです。確かな市場があるからこそ、私たちはこれらの手法への投資を続けることができ、より効率的な生産を追求して、限られた農地から毎年より多くの収穫を生み出すことができるのです。
一人の農家として、改めて深く感謝申し上げます。私たちはこれからも自らの役割を果たし、持続可能な方法で生産された製品を世界へとお届けし続けてまいります。

アメリカの農家が実践している、不耕起栽培や精密農業といった「環境を守りながら生産性を高め、コストも抑える」という持続可能な農業モデル。それは単に農作物を作るというだけでなく、燃料や副産物までが無駄なく循環する驚きのシステムであることがわかりました。遠い世界の話だと誤解しがちですが、実は自分たちの暮らし、そして地球の未来にまで密接に関わっているとインタビューを通してよく理解できました。
カルロスさん、ベリティさん、本当にありがとうございました!


