「エタノール・プロデューサー・マガジン2022年4月号」より『エタノールの新しい地上戦』

「エタノール・プロデューサー・マガジン」に掲載された『エタノールの新しい地上戦』の原文の英語版と参考和訳を掲載いたします。

(参考和訳)

『エタノールの新しい地上戦』

3本の開発中CO2パイプライン。炭素回収・貯留は、エタノール産業の新たな変革の原動力と期待されています。エタノール産業が目指すネット・ゼロ・エミッションの実現は、この技術にかかっているのです。

ケイティ・シュローダー|2022年3月14日

炭素回収・貯留(Carbon Capture and Sequestration, CCS)は、エタノール生産において、今、最も旬な話題であることは間違いありません。3社が米国中西部の北部全域でCO2パイプラインと貯留システムの計画を進めています。30か所以上のエタノール工場が参加する共同企業体であるサミット・カーボン・ソリューションズ(Summit Carbon Solutions)社は、現在、建設のために必要な土地所有者からの地権の取得に取り組んでいます。

さらに、ウォルフ・カーボン・ソリューションズ(Wolf Carbon Solutions)社は、エタノール生産企業のADM(Archer Daniels Midland)社と提携し、アイオワ州とイリノイ州の工場からのCO2パイプラインの建設を計画中であることを、最近発表しました。2022年1月には、ナビゲーターCO2(Navigator CO2)社が自社のパイプラインが敷設される地域での地元説明会を終了しています。本記事では、各パイプライン企業の代表者から、CCSとそれがエタノール産業にとって何を意味するのかについて詳しくお伝えします。

現状
炭素回収は、様々な産業で発生する大気中の二酸化炭素の削減を目的としています。二酸化炭素を回収し、脱水・圧縮して液体にした後、パイプラインなどで貯留場所まで輸送し、その液化二酸化炭素を深度1,500メートル以上の地下に貯留します。 貯留される地層は多孔質で、厚いキャップロック(上部貯留層)の下にあり、二酸化炭素が再浮上しないようにする必要があります。また、貯留場所によっては、下部遮蔽層が必要な場合もあります。

サミット・カーボン・ソリューションズ社は、カナダ国境に近い米国北部ノースダコタ州のビスマルク北西にある6万ヘクタールの貯留場所を利用します。ウォルフ・カーボン・ソリューションズ社とナビゲーターCO2社はどちらも、イリノイ州中南部の地下にあるマウント・サイモン層内にCO2を貯留すること計画しています。

サミット・アグ・インベスター(Summit Ag Investors)社の社長ジャスティン・キルヒホフ氏は、炭素回収技術が、いかに実績があり、信頼性が高く、エタノール工場との相性が良いかを説明しています。「炭素回収の技術やコストはCO2源の純度と相関しています。その点で、純粋なCO2を発生し、新しい技術を何も使わずにCO2回収できるエタノール産業は、炭素回収業界との親和性が高いのです。そして、炭素回収産業は、低炭素燃料の多様な新しい市場機会をエタノール産業に提供する、非常にユニークな立場にあると考えています」

サミット・カーボン・ソリューションズ(Summit Carbon Solutions)社
サミット・カーボン・ソリューションズ社は、米国中西部のネブラスカ州、サウスダコタ州、ミネソタ州、アイオワ州、ノースダコタ州を通る約3,000キロメートルのパイプラインの建設を計画しています。現在、このプロジェクトは32か所のエタノール工場と提携し、各工場の二酸化炭素排出量(炭素フットプリント)全体で最大50%削減する予定です。キルヒホフ氏によると、このCCSパイプラインシステムは、2024年の第2四半期に完全稼働する予定だとのことです。

キルヒホフ氏の説明によれば、同社が貯留サイトとしてノースダコタ州を選んだのは、クラスVIの坑井許可¹ を連邦レベルではなく、州レベルで取得できる2つの州のうちの1つであり、「ノースダコタ州は地質が非常によく知られており、炭素貯留を受け入れるビジネス環境も整っている」からであるとのことです。

キルヒホフ氏によれば、サミット・カーボン・ソリューションズ社の親会社であるサミット・アグリカルチュラル・グループは、ブラジルで設立したバイオ燃料会社FS Bionergiaを通じて低炭素燃料市場に価値を見出したこと、また2011年まで米国でエタノール工場を2か所所有・運営していたホークアイ・リニューアブル(Hawkeye Renewables)社でのエタノール産業を経験したことが、炭素回収事業を進めるきっかけになったとのことです。

ブラジルで得た低炭素燃料に関する知識と、米国でのこれまでの経験やビジネス交流を融合させることで、「炭素を価値の中心に置くこの新しい世界で、エタノール産業だけでなく、さらにより重要である、多くのトウモロコシがエタノール生産に利用されることによる農業へ与える長期的影響に、どのように貢献できるのかを考えるようになりました」と述べています。

サミット・カーボン・ソリューションズ社は現在、ノースダコタ州での貯留サイトの開発を進めると同時に、パイプライン建設予定地の土地所有者と一連の情報交換会を開催するなど、パイプラインの用地取得を行っています。

ハートランド・グリーンウェイ(Heartland Greenway)
ナビゲーターCO2(Navigator CO2)社の政府・広報担当副社長であるエリザベス・バーンズ-トンプソン氏は、ハートランド・グリーンウェイ・プロジェクト(Heartland Greenway Project)を「最先端の炭素回収・貯留システム」であると説明しています。このシステムは、5つの州にまたがる約20のエタノールと肥料の生産施設に接続し、サウスダコタ州、ミネソタ州、アイオワ州、ネブラスカ州、イリノイ州を通る2,100キロメートルのパイプラインです。

ナビゲーターCO2(Navigator CO2)社のバーンズ-トンプソン氏は、パイプラインの建設と運営に精通しています。バーンズ-トンプソン氏によれば、「ナビゲーター社のチームは、中継インフラ(パイプラインインフラ)の建設と運営に関する専門技術について数十年の経験を持っていて、こうしたプロジェクトではこのような経験は極めて重要」とのことです。

ハートランド・グリーンウェイは、2024年に着工し、参加施設は2024年から2025年にかけて稼動する予定です。今後1年半から2年の間に、ナビゲーターCO2(Navigator CO2)社は、パイプラインを建設する州の許認可手続きを行うとともに、クラスVI貯留井の環境保護庁(EPA)の承認など、連邦政府の許認可申請も行う予定です。

ウォルフ・ミッドストリーム(Wolf Midstream)社
カナダのウォルフ・ミッドストリーム(Wolf Midstream)社の関連会社であるウォルフ・カーボン・ソリューションズU.S.(Wolf Carbon Solutions U.S.)社は、アイオワ州とイリノイ州を結ぶ560キロメートルのパイプラインを建設し、毎年1200万トンの二酸化炭素を輸送できるようにする計画です。ウォルフ・カーボン・ソリューションズU.S.社のマネージャーであるニック・ノッピンジャー氏によると、まず2つのADMエタノール関連施設に接続し、ADMのエタノールおよびトウモロコシ加工事業に電力を供給する関連コジェネレーション設備からの排出を収集することについて、現在積極的に協議中であるとしています。このパイプラインは、2025年半ばに操業を開始する予定です。

関連会社のウォルフ・ミッドストリーム社は、すでにCCSの経験を持っています。ノッピンジャーによれば、同社は「北米で唯一の独立企業体によるCO2システム事業」であり、アルバータ・カーボン・トランクラインを「約2年前に建設、稼動し、これまでに200万トン以上のCO2回収に成功」しているとのことです。

「私たちのスポンサーとウォルフ社の経営陣は、米国でのこの成功体験から、産業規模がカナダより大きい米国では、炭素回収と貯留のニーズがさらに高く、施設の脱炭素化のための最も簡単ですぐに実行可能な方法であると考えた」と、ノッピンジャー氏は述べています。

ノッピンジャー氏によれば、ウォルフ社は現在、パイプラインルートの確定前に、パイプラインによって影響を受ける可能性のある土地所有者、関係者、議員からの聞き取りを行っており、「これらの話し合いが済んだ後、最善なパイプラインのルートをいくつか設定し、それらの土地所有者との具体的な交渉を通じて、最終的な契約を成立させる」つもりであるとのことです。

農場から工場までの利益
炭素回収パイプラインは、エタノール産業だけでなく、中西部の農業全体に新たな利益をもたらす可能性を秘めています。「中西部をコーンベルトや大豆ベルトと呼ぶことから、中西部の地域にとって、農業がいかに重要であるかということがわかります。したがって、現地に確固とした生産穀物利用産業の枠組みを持つことは、生産する穀物の市場確保に依存している農家にとってだけでなく、進化し続ける市場の需要に対応するためにも非常に重要です」とバーンズ-トンプソン氏は述べています。

ノッピンジャー氏によれば、脱炭素化の推進は、エタノールの価値を高めトウモロコシの価格を安定させる役割を、CCSに与えています。「CCSはエタノールを非常に低炭素な燃料として位置づけ、エタノール産業の脱炭素型産業としての価値を高めます。つまり、エタノールからトウモロコシの価格、そしてトウモロコシが栽培される土地に至るまで、バリューチェーン全体が恩恵を受けることになります。エタノールがより競争力を持ち、より高い価格を得るようになれば、トウモロコシに対するより持続可能な需要を引き起こし、トウモロコシの価格を支え、それが土地所有者の利益にもなるのです」

ネットゼロへの一歩
低炭素製品が好まれる市場において、炭素回収は、安定性と競争力をエタノール生産者に与えるでしょう。いま、エタノール産業は、二酸化炭素排出量を削減し、ネットゼロを目指すことで先手を打つことができるのです。

キルヒホフ氏は、これがエタノール産業の競争力維持にどのように役立つかをこう説明しています。「電気自動車の普及は、二酸化炭素排出量の削減が中心となっています。一方で、エタノール工場から排出されるCO2を貯留する能力を見れば、この先10年の間に、CO2を回収・貯留するエタノール工場の二酸化炭素排出量は、正味ゼロすることが可能であろうと考えています。率直に言って、電気自動車の観点からは、これは非常に難しいことなのです。なぜなら電気自動車については、電力網からの給電以外にも、電池の製造などについても考慮しなくてはならないからです」

ノッピンジャー氏は、エタノール産業が脱炭素化の動きをどのように利用できるかについても、以下のように強調しています。「世界経済は、脱炭素製品が競争優位に立ち、市場でプレミアムがつくような新しい世界へと移行しています。そして、エタノールは低炭素燃料であるため、すでにそのような利点を持っているのです。さらに、エタノールの製造過程で発生する二酸化炭素を回収・貯留することで、炭素強度スコア(CI)をさらに下げ、燃料分野での競争力をさらに高めることができます。このようなシステムを通じて、エタノールは、持続可能な航空燃料などの分野での脱炭素化にも貢献し、エネルギー転換の次の段階において、市場で最も競争力のある低炭素燃料のひとつになるのです」

刻々と変化するエタノール市場において、炭素回収はエタノールの競争力を高めるチャンスになるかもしれません。「エタノール工場は、長期的なビジネスを考える上で、CO2を回収し、炭素の観点から競争力を維持する機会を、何らかの形で探すべきだと思います」と、キルヒホフ氏は述べています。

バーンズ-トンプソン氏は、エタノール産業がこの技術の採用を続けて、改善と進化を遂げることを期待しています。「私たちはこのプロセスを進化させ続け、10年先にはこれらの工場はCCSの次の技術も利用して、違った姿になっているでしょう。その技術が何であるかを想像するのは難しいですが、10年前には現在の姿を思い浮かべることはできませんでした。同様に、10年先も変化していることでしょう。これまでのエタノール産業が常にそうであったように、今後も最適化と改善を続けていくでしょう、私たちの産業は信じられないほどの困難を乗り越えてきたのですから。」

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1. クラスVI坑井許可:地中への物質注入のために掘削する坑(井戸)に関する米国環境保護庁(EPA)によるクラスIからVまでの5種類の許可のうち、地中にCO2を注入する抗井に関する許可

 

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(参考和訳)

エタノールの新しい地上戦.pdf
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